有吉弘行にみる「好漢度」と 「有吉の壁」のスローガンとは?

有吉の壁
出典:https://twitter.com/ariyoshinokabe
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有吉の壁」(日本テレビ)は、次世代を担う若手お笑い芸人たちが、メインMCの有吉弘行が用意した様々な「お笑いの壁」に挑戦し、壁を超え芸人として成長するというコンセプトのバラエティ番組だが、同番組を観た視聴者からは「懐かしくも新鮮だ」という声もあり、オンエアは不定期ではあるものの、すこぶる大好評だ。

同番組は「内村プロデュース」や「ビートたけしのお笑いウルトラクイズ」の流れを継承している。
今回はそんな「有吉の壁」の魅力とともに新たな武器でもある「究極の普遍性」を手にして新時代の笑いの開拓に挑戦する有吉弘行という男の魅力に迫ってみた。

「スタンダード」という有吉の魅力

芸能界には異端児という突出した人間が数多く存在し、ときに普通の人間というのは異端児に憧れを抱いたりもする。
しかし、異端児と呼ばれる側からしてみれば、案外と普通の人間に憧れを抱いているのもまた事実。
普通になりたい。もっと目立ちたい。

相反する隣の芝生への憧れ、互いに惹かれ合うこの現象は俗にセレンディピティとも呼ぶことができるかもしれないが、従前のように、昨今の芸能界で重宝されるのは、周りから何を言われようが地道にひとつのことを積み重ね、何事にも靡かず確固たる地位を貫き通す有吉のような人間だろう。

普通の人間も、異端児と呼ばれる人間も、人というのはそれぞれ何かしら信念があり、正攻法の大切さというものは分かっているはずだ。しかし、生き方が多様化される昨今「普通の人間」というのは年々と減ってきており、大都市圏内であっても、もはや3〜5人に1人居ればまだ良い方で、その他大勢がどこかクセのある異端児という風潮がある。

今や希少種となった抜群のバランス感覚をもった視野の広い人間。
そんなウルトラスタンダードの代表格と言っても過言ではないのは何と言っても「太田プロの真珠」「広島が生んだ快男児」「軍人ロックスター」とあらゆる異名を流布してきた有吉弘行だ。

稀代の天才・有吉弘行にみる究極の「シンプル」

まず最初に断っておきたいのは芸能界における「スタンダード」と「ステレオタイプ」はあくまでも似て非なるものであるということだ。
ここでいう普通というのは「究極のシンプル」のことで、ステレオタイプのような、レールという存在に忠実に従い普遍的な人生を歩んでいるような人間を指しすわけではない。

むしろ有吉自身も不遇の時期は一際、変態的で異質な雰囲気を醸し出しており、今でも恥じることなくかつての奇人的な感情を表出するシーンはある。

電波少年におけるヒッチハイクでのユーラシア大陸横断などをはじめ、有吉自身の波乱万丈な人生と「紆余曲折を経て生まれたシンプル」というものは、ここ一番で誰にも真似できないようなオリジナリティを発揮することもある。

近年、「ヒルナンデス」などのMCスキルが飛躍的に上昇したのは、基本はオーソドックスに忠実になりながらも所々でかつての「嫌われない毒舌」や「アダ名芸」をここぞという時に抜群のタイミングで小出しにしていくという緩急の付け方をうまい具合に取り入れ始めたからだろう。

ドン底から見えてきた新たな強みと笑いのヒント

どん底 有吉

今や数多くの冠番組を抱えている有吉だが、自身の番組の中でもっとも思い入れがあるのは「有吉の壁」だ。
同番組OA中の有吉の表情をみていても有吉の変化に気付いている視聴者やファンは意外と多いことと思う。

有吉の他番組での振る舞いと「有吉の壁」におけるそれの違いは、なんと言っても「本人が心から楽しんでいる」という点にある。
話は2002〜2005当時に遡るが、この当時というのは本人も含めて有吉自身のコンビ「猿岩石」のドン底時代の真っ只中だった。(程なくして猿岩石は有吉のお笑い思考と森脇の音楽路線への追求という方向性の違いが表面化したことにより正式に解散)

そんな中、有吉がひと際異彩を放っていたのが『内村プロデュース』という深夜バラエティ番組である。

内村プロデュースの放送当初はレギュラー出演者が内村光良ふかわりょうの2人だけで「溺死体オーディション」「3代目ブルース・リーオーディション」など毎週、狭窄的な笑いをとことん追求していくといういかにもコアなお笑いマニア層向けのロケ中心の企画型番組だったが、さまぁ〜ずがレギュラー入りする頃から若手〜中堅世代のお笑い芸人が多数出演するようになり、それに伴って番組内容も大喜利やコントなどを主体とした構成へと変遷していった。

内村プロデュースには当時は中堅芸人扱いだったさまぁ〜ずの他にもくりぃむしちゅーTIMなども出演。

有吉自身もこの番組で愉快な仲間たちという枠で出川哲朗らピン芸人と出演し、プロレス好きの荒くれ者として暴れ倒したり、ミュージカル「キャッツ」をモチーフにした「猫男爵」に扮したり、家庭訪問すごろくという企画内においては芸人たちの自宅に裸で上がりこんでシャワーを浴びて泡まみれの状態でカメラの前に登場するのがお約束になっていた。

内村プロデュース内での有吉は、とことん際どいところの笑いに挑んでいき体を酷使していたが、有吉の壁には、そんな不遇な時期の自身の経験が下地になっているところもある。

アダ名芸・毒舌芸で培った「持続する笑い」

このように、ブレイク前の有吉というのは「瞬発力のある笑い」が持ち味だったが、そんな綱渡りの暗黒時代で唯一の出番であった内村プロデュースもやがてオンエア終了を迎え、今度こそ本当に追い詰められてしまう。

収録が終われば自然と酒に手が伸び、憔悴しきったままの状態で喉を鳴らしながらヤケ気味に飲む日々の繰り返し。
せっかく笑いを取ったのにそれも一瞬だけ。おまけに番組ではクズ同然に扱われる。
ひどい話だ。

しかし、そんな不遇な状況の中でも有吉は必死で自分だけの持ち味と立ち位置を一生懸命血眼になって探り続けることを決して止めなかった。
自宅に引きこもりがちになり、フラストレーションを感じてはテレビに向かって、あるいは楽屋で暴言を吐き続ける日々

お前の、いつも楽屋でやってる毒舌芸だっけ?いいよ、それ

内村とさまぁ〜ずはそんな有吉をずっと鼓舞し続けた。
周囲の理解もあり生まれたのが「アダ名芸」と「毒舌芸」だった。
片っ端から大御所タレントに噛み付いていくその勇姿からは高感度ならぬ「好漢度」が零れ出る。

結果として、有吉はアダ名芸から毒舌芸へとシフトし「持続する笑い」を生み出することに成功する。
しかし、変化が激しいのは笑いの世界であっても同じだ。
それだけでは、いずれただの毒舌の人というで飽きられて終わってしまうだろうという懸念もある。

しかし、当時内村たちが評価してくれたものをまたぶち壊してしまえばそれはそれで、ただの普通の人止まりだ。
次のステージに歩を進めるためには毒を薄める代わりに再度、何か新たなものを手にする必要がある……。
再ブレイクの最中、テレビ出演ランキングで上位をキープするほどにそれぞれ毛色の違うあらゆる番組のレギュラーを務めながらも、今度は厳しい放送コードという新たな「」と対峙することになる。

究極のオーソドックスが異端児を生み出す

現在、有吉は複数の自身の冠番組を抱えている超売れっ子のバラエティタレントだ。
2回目の大花火を打ち上げることには成功したものの、このまま現状に甘んじていけば数年先には有吉と言えど、ただの司会者で終わってしまうというリスクも少なからずある。

ここで周囲のライバルとなるバラエティタレントとの差別化を図るには斬新な企画が必要だった。
悩める日々の中でヒントとなったのが前述の、自身の再ブレイクの足掛かりともなった内村プロデュースだった。
新しい形のロケ番組で、より高みへ。

自らが前に出ることを最小限にとどめ、究極的にオーソドックスを貫きとおし、若手芸人育成の手助けに尽力し後続の育成をも担う。
かつて内村光良やさまぁ〜ずはそんなスタンスと師のマインドで有吉弘行という稀代の原石を見出した。

そして今や、有吉自身も数多くの中堅芸人の師・兄貴分と仰がれるほどの唯一無二の存在となり、毒舌こそ必要最小限度に留めてはいるが、その代わりに「体を張ったロケ企画」という自らの毒舌以上の究極の毒を若手芸人に与えた。

第2の内村プロデュース「有吉の壁」で師匠・有吉は果たして今後、新たなスーパースターという異端児か、あるいはウルトラスタンダードならぬ「第2の有吉弘行」となりうる芸人を発掘し、誕生させることができるか。

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