「ノリボケ漫才」ハライチの魅力とは?

ハライチ
出典:http://natalie.mu/
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2000年代後期、エンタの神様が地上波で放送されていたその当時、世はまさに「お笑いブーム」全盛期の真っ只中にあった。

アンジャッシュ、アンガールズ、インパルス、オードリー、オリエンタルラジオ、サンドウィッチマン、陣内智則、タカアンドトシ、東京03、ドランクドラゴン、トレンディエンジェル、ナイツなどの数々のお笑い第四世代〜第五世代の芸人たちが同番組への出演をきっかけに華々しいブレイクを果たし活躍の幅を広げ、それぞれが数々の名のあるM-1グランプリなどの賞レースで栄冠を手にしてきた。

一方で当時は輝いていたものの、今となっては人知れずこっそりと消えてしまった芸人たちを挙げてもそれはそれで枚挙に暇がない。

かつてのお笑いブーム真っ只中、火付け役のひとりでもあった劇団ひとりが「このお笑いブームが続くのは一瞬だけ。いずれ必ず終わるときがやってくる」と自ら豪語していたこともあった。
始まりがあるものには、全て終わりがある。

現在OA中の地上波での芸人メインのトーク番組やバラエティ番組の惨状を目の当たりにする限りは奇しくも劇団ひとりの否定的な言葉どおり、世間はお笑い低迷期に突入しかけており、お笑い界はいま、いかにして笑いに興味のない層をうまく引き込むかを優先課題に掲げ業界再編に躍起になっている。

そんな今となってもエンタ畑出身のお笑い芸人たちの中には、20代にしてブレイクを果たした当時の若手芸人たちが今でも僅かに現存し、精一杯の活動を耐えず維持し続けている。
お笑いコンビ「ハライチ」もまた、エンタの神様への出演をきっかけに若くしてブレイクを果たしたうちの1組だ。

今回はそんな厳しい現状の中であっても大舞台で輝き続けるハライチというお笑いコンビにスポットを当ててその魅力を隅々まで探ってみることにした。

理論上最強のお笑いコンビ

ハライチは、ボケ岩井勇気ツッコミ澤部佑からなり、コンビ名は2人の地元である埼玉県上尾市「原市」カナカナ表記に変換させたというシンプルなもの。ネタ作りは主にボケの岩井が担当している。

ハライチは「ノリボケ漫才」といわれる斬新なコントスタイルを得意とする。
このノリボケ漫才こそが若くして成功を収めたハライチの真骨頂であり、岩井のボケに澤部が敢えてツッコミを入れずにそのままボケ倒し、敢えて岩井のボケに乗っかることで相乗効果を引き出し笑いを増幅させるという様式だ。

その後、岩井が延々と語呂合わせのような形で任意のセンテンスを繋ぎ合わせていくが、次第に設定した本題から少しずつ逸れていき、まったく関係のない言葉になるか、若しくは完全に出がらしになった時点で澤部が「関係なくなっちゃった!」と突っ込んで締めるというエッジの効いたスタイルだ。

このノリボケ漫才は、かつて水曜日のダウンタウンにてインパルスらが実践し、一部の大御所芸人のから「理論上はどのコンビが真似しても笑いが取れる最強のフォーマット」とも評されており、元々は岩井が夢の中で編み出した漫才スタイルだというが、最初の方は序盤に普通の漫才をやり最後だけノリボケをかますという構成だったようだ。

しかし2008年のM-1グランプリの一回戦で「制限時間が短いので全部いってしまおう」と提案され、それを実行。笑いを取ることに成功したことから、これを期に、その後も終始ノリボケ一辺倒で通すようになったという。

仮に、さまぁ~ずの「大竹ワールド」に則るならハライチワールドとも言うべきか、ノリボケ漫才というこのハライチ独自の世界観は笑いという要素に加えてどこへ向かっていくのかわからない「予測不能な漫才スタイル」として徐々に認められその真価を発揮し、オリジナリティが磨き上げられた現在、このノリボケ漫才は、すべての観客を釘付けにさせるような不思議な魅力を兼ね備えている。

ハライチというコンビの膂力はまさにその笑いに対する不撓不屈の精神性にあると言える。

笑いだけじゃなかった!澤部の多彩な顔

ハライチは一見すると冷静沈着な岩井主導のコンビのように思われるかもしれないが、実際のところフットワークは澤部の方が軽かったりする。

近年、澤部は漫才で培った持ち前の演技力を生かして複数のドラマ出演を果たしており、本業であるお笑い芸人の傍ら役者としての一面も披露する機会が増えている。

ご存知、福山雅治主演のドラマ「ガリレオ」シリーズでは太田川稔という刑事役を演じ、「信長協奏曲」にも出演、現在(2016年7月時点)OA中の松岡茉優主演の「水族館ガール」では、重要な役どころをほぼ本人の素に近い自然体で演じている。

役者としての澤部の妙技はハライチファンなら思わずクスっときてしまうシーンも見受けられるが、目を凝らしてよく見てみると「役者としての澤部佑」を物の見事に演じきっていることを窺い知ることができる。

お笑いのみならず、俳優という新境地を開拓した澤部の活躍の場は留まるところを知らない。
プライベートでは1年近くの交際を経て13年に一般女性と入籍。翌14年には第1子が誕生し、今年4月には第二子女児が誕生しており現在、澤部は二児の父でもある。

ハライチとしての芸歴は既に10年以上に及ぶが、一見すると追い風一辺倒で順風満帆のエピソードばかりが先行し、スターダムを一気に駆けあがってきたかのように思えるが、お笑いコンビ・ハライチとして歩み始めてからの2人の半生は実のところ波乱に満ちており、澤部の多忙も、全ては悲願でもあるM-1グランプリチャンピオンの座を獲得することに向けたものでもある。

さまぁ~ずイズムからの脱却、ノリボケ漫才誕生秘話

ハライチ2

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ノリボケ漫才が認知される前まで、澤部のツッコミは三村ツッコミと酷似していると囁かれていた。

三村ツッコミとは読んで字の如く、さまぁ〜ず・三村のツッコミだが敢えてハライチとさまぁ~ずの共通点を見出すのなら、キレのある大竹のボケに追い込まれて最終的に止むを得ずしてツッコむ三村という絵面を習うように、矢継ぎ早に繰り出されるドSの岩井のボケを何としてでも全て拾い切ろうとするMの澤部のノリボケという構成。

厳密にはツッコミではない三村ツッコミと、澤部のノリボケが図らずとも酷似しているという疑惑が双方のファンの間で浮上していたことから「澤部のツッコミはどこから見ても三村の模倣ではないのか?」というコンビならではの問題点に関して、澤部は苦心していた。

そんなつもりもないし、まず自分たちにはさまぁ~ずのような勇壮闊達な立ち振る舞いは到底真似できない。自分たちにしか表現できないオリジナルの笑いのスタイルを確立するにはどうすべきだろうか。

コンビとしての苦悩は続いた。
澤部自身、さまぁ〜ずは唯一無二の先輩芸人としてリスペクトしている部分もあるようだが、どう足掻いたところでさまぁ~ずにはなりきれないし、どう真似したところで二番煎じで終わってしまうのが関の山だ。

新たな方策を考えなければいけない。
2人の頭の中にはそんな危機感にも似た懊悩がもうもうと立ちこめる。
終いには「ハライチの漫才は『なし崩し的』」とまで揶揄される始末だ。

熱烈なお笑いファンの間で繰り広げられる痛烈なまでの自分たちに対する数々のネタ批判を重く受け止めた澤部は、ついに「お笑いを辞めたい」という自らの真情を岩井に吐露してしまう。
ノリボケ漫才はそんな、もうあとがない悩める2人のもとに偶発的に降りてきた神々しいサプライズだったのかもしれない。

M-1グランプリ制覇にかける想い

何もかも順風満帆な人生などありえない。
しかし、芸人という道を選んだからには何としてでもその世界で頂点を目指したい。

何事にも一生懸命という体を崩さずも、昨年は前年の圏外から一気に躍り出た2015タレント番組出演本数ランキングで3位となる快挙を果たした。
昨今の澤部のドラマ出演などをはじめとする多方面での活躍はあくまでも野望ありきで、気分転換を兼ねた芸人を続けるための足掛かり的なサイドワークだ。

2016年現在、ハライチのM-1グランプリでの最高順位は5位

芸人としてのポテンシャル・実績ともに自身が敬愛するさまぁ~ずはもちろんのこと、内村光良、有吉弘行など名のある大御所バラエティタレントからの評価も折り紙付きだ。

もはやいつ賞レースで王座に輝いても不思議ではない頭脳明晰な実力派漫才コンビだが、そんな実力的にも申し分のないハライチでさえもベスト5止まりという結果から見ても、お笑いブームの全盛期が過ぎ去ったこの時代であっても如何に笑いの頂点を極めるということが難しいかを雄弁に物語っている。

ハライチと同世代のお笑い芸人には厚切りジェイソン、柳原可奈子、あばれる君、パンサーなどいずれも数々のタイトルで実績を積み重ねてきたネームバリューのある猛者の芸人たちが名を連ね、迫り来る活きのいい若手芸人達。

年々「芸人枠」を巡る生き残りをかけた戦いは苛烈を極めている。
だが、そんな群雄割拠とした中でもハライチというコンビがこのまま無冠の帝王という枠組みに留まるはずがないと、我々はどこか期待してしまうのである。

コンビとしての転換期を迎えたハライチ

低迷期の渦中にあっても相方・岩井の妥協も怠慢も許さなかった堅忍不抜な精神も手伝い、ここまで辛抱強く笑いに対する情熱を失わずに切磋琢磨し続けてきたことで、昨今では徐々にお笑いファン以外の間でも認知され始めてきた。

コンビの代名詞でもある「ノリボケ漫才」と、今となっては数々のハライチの不覊奔放なネタこそが、風前の灯火でもある笑いの世界における純然たる個性にして必要不可欠なエレメントであるということは紛れもない事実である。

シュール芸、リズムネタなど幾つもの笑いのトレンドが生まれては消えを繰り返す中で「フォーマット上最強のスタイル」を生み出し、世間に浸透させたハライチには今年こそM-1グランプリの王座に輝き、快哉を叫ぶことができるか……。

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